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逃亡〈上〉 (新潮文庫)

逃亡〈上〉 (新潮文庫)

とうぼう〈うえ〉 (しんちょうぶんこ) / 帚木 よもぎふ

帚木 蓬生
定価 : ¥ 820
発売日 : 2000/07
出版社/メーカー : 新潮社
おすすめ度 : (9 reviews)
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カスタマーレビュー
『憲兵』の実態と戦犯逃れの逃亡記。, 2008-09-29
■ 【フィクション?ノンフィクション? 】
戦後55年。2000年に出版されたこの本の著者は、53歳
の戦後生まれ。この長編作品は、フィクション?ノンフィ
クション?描かれていることが、大変詳しく、かつ、リアリ
ティーを持っている。しかし、その答えは、下巻の巻末の
久保光彦氏の(あとがき)寄書で明かされております。
■ 【戦犯逃れの逃亡記 】
主人公は、香港(占領下)で(日本軍)憲兵だった「守田
征二」。大東亜戦争の敗戦を迎えるところから物語が始
まります。占領下での(日本)軍隊の略奪、焼打ち、凌
辱、レイプ、拷問など。それらを見逃し、現地密偵を使っ
たスパイ行為の頂点に立つ憲兵は、敗戦と共に、目の
敵であり「憲兵狩り」の標的です。辛うじて、日本に帰還
すると、今度は、占領軍のGHQの戦犯追跡に会いま
す。しかし、結局は巣鴨プリズンに収監され、そこでの生
活で終わります。
■【車は急に停まれない!軍・警察癒着 】
巣鴨プリズんへの収監前の警察の扱い、収監後の香港
移送への手続きの遅延ぶり、など軍と戦後警察の癒着
、敗戦時の、軍と官僚による責任逃れの一斉焚書、レッ
ドパージ、講和条約によるA級戦犯の釈放、元軍属(本
書の元憲兵守田も含まれる)への軍人恩給など、一連
の戦前の反省が中途半端に終わり、敗者自ら裁くことを
せず、戦犯自ら「世捨て人」にもならず、戦後政治の舵
取りをして今日に至っているのも残念ながら事実です。
■ 【『憲兵』は何をしたか? 】
本書で明されている、『憲兵』の記述は新鮮なものでし
た。恐らく、元憲兵の多くは、既に鬼籍に入られ、又、自
分達の行為は、戦後日本に帰還したものの他人に語れ
るものではないと思われます。著者は、恐らく、それらの
人々から貴重な体験談を元に、息をも吐かせぬ凡そ
1200ページの長編アクション小説に纏め上げております。
国家・戦争・個人, 2006-04-20
友人から「君は国を愛していないの?」と尋ねられたことがある。私は「なら国は君を愛してくれているの?」と言下に尋ね返した。友人は黙っていた。
本書の主人公は逃亡を余儀なくされた戦犯である。彼は国家のために身を賭して働き、人倫に悖る行為をもあえて引き受けた。
その見返りが国家による裏切りだ。
辛うじて命をつなぎ戦地から家族の下に帰還し、ようやく安息が得られると思った。しかし突如として今度は国家から追い詰められていく。
「愛国心」「国のため」を称揚していたのは誰だったか。
国家の欺瞞に滅茶苦茶にされた個人の人生は一体何によって贖われるのか。主人公やその家族、逃げ回る戦犯たち。本書に登場するのはいずれも国家そして戦争にたった一つしかない自分の人生を蹂躙された者ばかりである。
どうして人間がここまで理不尽に翻弄されなければならなかったのか。
幸福な時代に生まれた私の生活の背後には、自らの力を大きく超えた暴力に常に怯えていなければならなかった人々の苦悩があった。
そのことを強く胸に留めておかなければならないと思った。
読むことがこれほどつらくなる小説はなかった。
しかし、なんとしても読まなければならないとこれほど強く思った小説もなかった。
戦争の“愚か”さ, 2006-01-08
戦争中憲兵(特高警察)として香港で厳しく治安維持にあたっていた主人公が敗戦後一転して戦犯に指名され、その理不尽さゆえ中国大陸から日本、そして日本各地を逃亡するという、文庫版で上下合計1200ページの大作でした。
97年の作品で柴田錬三郎賞を受賞しています。
原爆を投下して罪もない一般の人々を何十万人も殺したアメリカが罪を問われず、上官の命令で対日不満分子をはからずも手にかけてしまった者が、敗戦国ということで指名手配される。
作者はその不公平さ、理不尽さから戦争の愚かさを訴えているように思いました。
多面的な読み方のできる傑作, 2004-11-27
主人公守田征二は敗戦の時、中国大陸で憲兵をしていた。一夜にして立場が変わり、身の危険を感じた守田は同僚の誘いに応じて離隊し、変名で民間人として収容所に潜り込む。憲兵の身分がばれるのに怯えながらようやく日本に帰り着き、家族と再会したものの、戦犯追及の手は国内にも及んでいた…。
フィクションではあるが、十分な取材に基づいて詳細に描き上げられる戦時下から終戦直後にかけての意識と生活が興味深い。自らが加害者でもあった憲兵を取り上げながら、家族を愛し追求に怯える、感情移入できる主人公として据えることで、過去の一方的な断罪や被害者面といったありがちで皮相な描き方からは無縁となった。
元上司である曹長の戦後の天皇批判にはやや鼻白むが、戦勝国がレッテルを貼った戦犯とは何だったのか、ということを考えさせられる。追われる者を描くエンターテインメントとしても上質であり、苦難に堪える家族の描写は泣かせる。多面的な読み方ができ、それぞれの点でレベルの高い傑作であった。
確かな筆致で書かれたB・C級戦犯容疑者を主人公としたストーリー, 2004-05-11
戦時下の暗いイメージの象徴的存在として取り上げられる憲兵。守田は戦時中、香港・広州で憲兵として諜報活動を行った経歴をもつ。終戦とともに憲兵の多くが戦犯容疑者として拘束されることを察し、逃亡を決意する。民間人に身をやつしようやく故国に帰り妻子と再会するが、やがて国内でも戦犯追及の手が及ぶと、家族の下を離れ、果てしない逃亡生活に入っていく・・・。
上巻は戦時下の諜報活動とそこで出会った人々の回想を交えながら、中国の日本人収容所での生活を描く。下巻は帰国後の日本、ヤミ市、農村、そして逃亡生活が描いていく(主人公の故郷が筑後地方という設定のため、後半は福岡が舞台となる)。
国家権力によって徴兵され、戦地に赴き、軍隊としての命令の中で行った活動が罪に問われる理不尽さ・・・。終戦後、日本の旧占領地各地で行われた戦犯裁判、世に出ることがないB・C級戦犯に対する扱い、その中で多くの憲兵が裁かれていったという事実が直接・間接に描かれていく。
後半の逃亡を続ける主人公と、その帰りを信じ待ち続ける家族。運命に屈することなく、抗い続ける生き様が、しっかりした筆致で描かれる。ラストにかけての主人公とその妻の心理描写は秀逸。それだけにラストの感動は深い。的確な心理描写、ディテールをおろそかにしない描写や人物造形に最後まで読ませる。
派手な場面はないが、しっかりストーリーは好印象。

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